作り手になるまでの物語をたっぷりお聞きしました。

今回のインタビューは、葉山在住、ニットデザイナーの渡部まみさん。

渡部さんは、ニットブランドshort fingerとして、オーダーメイドのニット帽を制作するとともに、CA&Co.という上質なカシミアのニットブランドも運営されています。

渡部さんとは移住前に知り合い、展示会でニット帽をオーダーさせていただくなど親しくさせていただいていました。葉山に来てからもご縁が続き、今では家族ぐるみのお付き合い。

どんな時も太陽のような笑顔で、お会いすると必ず元気になれる渡部さんは、私にとってニット作家としてはもちろん、女性としても憧れの存在です。

(聞き手:works and stories 松井咲子/撮影:渡部忠)

6100%の力を出して今これをしてしていますって言いたいから、腹を決めてやってる。

- 最終回は、渡部さんの作家としての葛藤についてお聞きします。
 
これまでお話を伺うなかで、いつもまっすぐ前を向いてお客さんのためにニットを編む姿が印象的で、それこそが渡部さんが10年も続けてこられた秘訣だと確信しました。
 
でも、悩みがちで怖がりの私は、自分自身と向き合い続けるのが辛くなることはないかな、と余計なことを心配してしまいます。
作家として自信を失ったり、周囲が気になったりすることはなかったのでしょうか。

渡部
スタートは同じだったのに、就職先が違ったあの子は若い素敵なブランドをやらせてもらってる。とかありますよね。学校卒業してから一発目はそういうことで悩む。
そのあと少し経って20代の後半ぐらいになると、同級生の中に独立していろんなことを始める子が出てくる。そうすると、すごいなあ、自分はくすぶってるなあって思う。
節目でそういう悩みがちょこちょこあるよね。
まだ100%本気出してないだけって。本気出させてもらえないこの場所が悪いだけって思うこと。

- 確かに私たちはついつい周りと比べて自信を失ったり、このままでいいのかなと悩んだりしてしまいます。
若い時は特にそう。私も夜布団に入ってから、悔しくて眠れないなんてことがよくあったなあ。

渡部
30代半ば頃になった頃からかな、私って結局これぐらいまでしかできないんだとか、無理すればもっとできるけどその無理がこれから何十年できるのかしら、って、いろいろ考えると思うんです。
それできっと選んできてるんですよね。
私もいろいろあきらめることもあって、でも言い訳はしたくないから、100%の力を出して今これをしていますって言いたくて腹を決めてやってる。
 
みんなそうなんじゃないかな、続けてる人は。早い段階で道を選んで腹をくくったほうが幸せだよね。

- このお話を聞いて、ドキッとしました。
できること、できないことをしっかり見極めて、できることを100%の力を出してやると腹をくくる。
できないことを認めるのはエネルギーの要ることだけれど、これができるかどうかで、その後の人生は大きく変わってくるのかもしれません。

松井
来る波に乗り続けてる渡部さんも、決めたんですね。
渡部
そう。人のInstagramとか見てるときに「はっ」と思ってしまったり、「この子すごい…私は…」って思ったり。そうすると、自分ができてること、やってること、体のこと、生活のことを真剣に考えて、何をするべきかをやっぱり選んでる。そうしないと自分も周りにいる人も大変だから。

- かっこいいなあ。
私は自分がやると決めた後も、周りが気になって、不安になったりジタバタしたり。
来る波に乗った自分を認めて、その時できることを真剣に考えて、やる。大いに見習いたいです。
 
でも、そんな渡部さんも人と自分を比べてしまうこともあるといいます。

渡部
人のしていることに嫉妬するし比べちゃう。仲がいい子でも嫉妬することがある。でもそれは、その人が作るものを素晴らしいと思っているからなの。作り出せることに対する嫉妬なんですよね。
30代半ばか後半ぐらいからそこを深堀りできるようになって、どうして自分はそのことにそんなに嫉妬してるんだろうって思って。どうやって嫉妬しない自分にできるのかっていうのを考えるようになったと思う。

- 渡部さんも嫉妬したりするんだ!
そしてその嫉妬の消し方がとても斬新です。

渡部
手を動かしていれば気持ちをクリアにできるんです。私は。あとは、話を聞きに行く。直接。
聞いて「ああ、そういう風になってるんだ」って。素直に理解して「すごい!私も頑張る!」って帰ってくることが多かったりして。ぐずぐずしてるとよくないから、聞きに行っちゃう。

- もうびっくり!嫉妬している本人に教えてもらって晴れやかな気持ちで帰宅する。

松井
その強さは一体どこから来るのでしょうか。
渡部
40歳すぎたら怖いものがなくなったんですよね。
意外と何でも認めて、弱いことも人に言える。昔は弱さを話せなかったんですよね、怖くて。

- 渡部さんと同じ40代の私は、まだまだ怖いものだらけ。
でも自分の弱さを認めて人に言えるようになったら、その先の景色は大きく変わるんだろうなあという漠然とした希望は持っていて、その日が訪れるのをまだかまだかと待っています。
まずは、負の感情を持った自分を許して認めてあげることを本気でやってみる。それだけでも随分効果がありそうです。

松井
どうやって嫉妬の理由を分析して解決する方法に、気づいたんですか。
渡部
嫉妬にとらわれちゃうと手が止まっちゃうから生産性がない。
だからもうやる、みたいなそんな感じ。

- 仕事に無駄なものはどんどんそぎ落としていくその姿、とっても潔い!
 
そして仕事人渡部さんを支える素敵な先輩方のこともお話ししていただきました。

渡部
葉山に移ってきたときに、岡尾さん(※スタイリスト岡尾美代子さん)や馬詰さん(※BORN FREE WORKS元オーナー馬詰佳香さん)など、ひとまわり先輩、そのまた先輩とすごくお話する機会があって、みんなきらきらしてるの。
それで、「まみちゃん40代は最高に面白いわよ」って言うの。でも、50代の人に聞くと「50代は本当に最高よ」って言う。さらに「60代はもう怖いものないわよ、もう最高よ」って言われて。
女性はどんどん楽しくなるからって。そうかそうか、じゃあ、年を取るほど楽しくなるんだってその言葉がずっとあって。
そういう素敵な先輩がたくさんいるから、ああいう風になるんだろなって漠然と思ってて、自分が10年経って40代になってほんとだ、こういうことかって。だからいい先輩との出会いもね、やっぱりありますよね。

- 年を取るほど楽しくなる、聞いているだけでわくわくしてきます。
キラキラする素敵な先輩たちの予言そのままに、好きな仕事に邁進して40代を謳歌している渡部さんもやはりキラキラしています。

松井
これまで活動されていて、やっていてよかったなと思うときはどういうときに訪れますか。
渡部
お客さんから商品を送った後、メールが届くんです。すごく似合いましたありがとうございました。って写真まで送ってくださって。それを見るとよかった~!って思う。
あとは赤ちゃんの時に出産祝いの時にプレゼントしたいですってオーダーを受けて送って、その子が4歳ぐらいになってまだかぶってきてくれるの。
そういうときによしっ、また作ろうって思います。お客さんがいるから続けられるっていうのがありますよね、きっとね。

- やはりいつもお客さんが真ん中にいる。
最後に渡部さんがしてくださったお話がとても印象的でした。

渡部
教師として勤めていた服飾専門学校の卒業式で、先輩の先生がとても素敵なお話をしてくれて。
卒業生のみんなに「優しい服を作ってください」って。
本来洋服は自分を飾り立てるためではなく、寒さや暑さから体を守るためにあるものだから、そんな気持ちで優しい服を作ってくださいって。
それを聞いたとき、私の作りたいものはそういうものだったんだととても心に響いて、私はアーティストではなくて、デザイナーとしてやっていこうと決めたんです。

- 来る波に乗り、できない自分をしっかり認めて、自分ができることに全力を尽くして結果を出す。
そうやって着実に歩んで来られた渡部さんに、私も大きく背中を押されて、一歩踏み出す勇気をもらいました。

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この記事に登場の作り手

ポートフォリオ

渡部まみ
都内の服飾専門学校卒業後、イトキン株式会社のニットデザイナー、某服飾専門学校の教職を経て、2007年葉山に移住、2008年ブランドshort finger(ショートフィンガー)を立ち上げ、活動をスタートさせる。
現在は外モンゴルで生産するカシミヤブランドCA&Co.(シーエーアンドコー)と、パタンナーの木地谷良一さんと運営するパターンレーベルTOWN(タウン)としても活動する。

https://short-finger.com/

〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色1490-4
info@short-finger.com

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