作り手になるまでの物語をたっぷりお聞きしました。

今回のインタビューは、葉山在住、ニットデザイナーの渡部まみさん。

渡部さんは、ニットブランドshort fingerとして、オーダーメイドのニット帽を制作するとともに、CA&Co.という上質なカシミアのニットブランドも運営されています。

渡部さんとは移住前に知り合い、展示会でニット帽をオーダーさせていただくなど親しくさせていただいていました。葉山に来てからもご縁が続き、今では家族ぐるみのお付き合い。

どんな時も太陽のような笑顔で、お会いすると必ず元気になれる渡部さんは、私にとってニット作家としてはもちろん、女性としても憧れの存在です。

(聞き手:works and stories 松井咲子/撮影:渡部忠)

3人のために顔を見ながら似合うものを作る

- 第3回は、渡部さんがオーダーメイドで作るニット帽への想いについてお聞きします。

松井
ニット帽、私も大好きでほぼ毎日被っているのですが、渡部さんはどんなニット帽を目指して作られていますか。
渡部
ニットって技術で言えば上手な人はいっぱいいると思うんです。私の場合は何を強みにしていくのってなったら、デザインだと思って。アパレルの会社で仕事もしていたから、既製品の顔をしたデザインができるのが私の特徴ですね。
ニット帽をかぶるって結構勇気がいることですよね。
Tシャツを着る、ジーパンを履くっていうのは誰にもできることだけど、帽子をかぶるってもう一段階難しいのかなと思うんです。だから、そこにすごく個性的なデザインを入れると、一部の人しかかぶれなくなってしまうから、誰にでもかぶれるものを作ろうと思って。
そうすると、ベーシックなものに行き着いて。
編地が好きだから編地に凝って、でもあくまでも形はシンプルベーシックなものにしようと思って。手編みと既製品のちょうど中間ぐらいのいい感じを目指したかな。

- 確かに渡部さんのニット帽はベーシックなデザインのなかにキラリと光るものがあって、毎日、楽しくかぶれる。
そして、かぶっていると必ず誰かに「その帽子いいね!」と褒めてもらえて一日気分よく過ごせる、そんな不思議な魅力があります。

松井
ニット帽。今や一番の主力商品ですよね。
渡部
ニット帽を作ってみてびっくりしたのは、バッグとかアクセサリーは女性しか購入されなかったんです、当然。
でもニット帽は、赤ちゃんから男の人から女の人からおじいちゃんおばあちゃんまでかぶってもらえますよね。こんなたくさんの人が買ってくれて喜んでくれるんだと思ったら、あ、ニット帽っていいな、と思いました。それでニット帽がメインになったかな。世代に関係なく性別も関係なく使ってもらえるから。
松井
確かに帽子は老若男女誰もが被れるアイテムですものね。
渡部さんのニット帽は、オーダーできるのも嬉しいポイントですよね。
直接作ってくれる人からアドバイスしてもらって作ってもらえるってすごく特別な経験だと思いますが、ニット帽のオーダーはどうやって始まったのですか。
渡部
最初はオーダーメイドをするつもりはなかったんですが、こうださんと展示会に出ているうちに悩んでいるお客さんが多いからアドバイスして。それで自然とオーダーメイドの人になってました。
松井
やっぱり、オーダーメイドのほうが楽しいですか。
渡部
うん、楽しい。発見があるから。
自分の中にないものってありますよね。自分の中にない感性。でもお客さんからポーンと飛んでくると、自分の中にはないけどどうにかしたいと思う。これは、アパレルでずっとやってきたときに訓練されたことですね。
私はアパレルでミセス服を担当していて、20代のときに50歳から上の世代が着るぐらいのラインに関わっていたんです。
サイズもゆったりしてたり、値段も高いし、ターゲットの年齢も高いから自分では着られない服だったの。
最初は戸惑ったんだけど、何年かやってるうちに「あのミセスのお客さんたちにこんなの着てもらったらかわいいんじゃないか」って思うようになってきて。
だから着る人に合わせて作るっていうこと、相手の趣向に合わせて、人のために顔を見ながら似合うものを作るっていうことを訓練されたんですね、きっと。
松井
自分には着られない服をデザインするって、私には全く想像ができない世界です。
でも会社員時代に、着る人の姿を想像して似合うものを作って来られたことが、そっくりそのまま今のニット制作のお仕事に活かされているように思います。
渡部
私はわりと順応型、昔から。
松井
なるほど、順応型か~。
そんな渡部さんに、オーダーメイドはぴったりですね。
渡部
うん、楽しめちゃう、逆に。
お客さんがこうしたいかなというのに対して、こうやったらかっこいいよっていう私のアイデアも入るから。こっちの発見とお客さんの発見、両方あると思うの。
松井
発見!それがすごく強みになって、いいですね。
渡部
そうそう。

- これまでに渡部さんがせっせと楽しそうに手を動かしてニット帽を編んでいる姿を何度も見ていましたが、外からはうかがい知れないお客さんとの共同作業が繰り広げられていたのだと思うと胸が熱くなります。
 
お客さんとの出会いの場である展示会について伺ってみました。

松井
今はオンラインだけで売る人もいるなかで、渡部さんはたくさん展示会に出ていらっしゃる印象があるのですが、それはなぜですか。
渡部
もともと人としゃべるのが好き。
出不精のくせにしゃべりたい。だから来てくれると嬉しい(笑)
昔から人が出入りする家で育ってるから、人と会うのはすごく好きで、しゃべるのもすごく好き。
でもものを作りたいから家にこもる。ということは、来てもらうしかない。そう思うと展示会がぴったりなんですよね。
 
オンラインだけでも良い世界だけど、やっぱり会いたい。
会ってお話したときの表情とか、着てるものとか、背格好とか雰囲気を思い出しながらニット帽を編むから。
オンラインで購入してくださるお客さんも喜んでくださるけど、本当は会った方がちょっとした高さとかいろんなことを追求できる。この柄のほうがこっちの柄より似合うかもしれないし。本当は日本中行ってみんなに会いたい。

- ここまで伺って、どうして私が渡部さんのニットを手離せないのか分かった気がしました。
ニット帽をオーダーするとき、お客さんはただニット帽を買っているのではなく、渡部さんに会って、おしゃべりをして、一緒にデザインを決め、ニット帽を作ってもらうというすべての体験を求めている。
だからこそ、出来上がったニット帽を手にしたお客さんは渡部さんのニットが大好きになって、手離せなくなるのだと思います。
 
次回は、4年前から始められたオリジナルのカシミアライン、CA&Co.のこと、そして、ビジネスウーマンとしての渡部さんのお話をお聞きします。

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この記事に登場の作り手

ポートフォリオ

渡部まみ
都内の服飾専門学校卒業後、イトキン株式会社のニットデザイナー、某服飾専門学校の教職を経て、2007年葉山に移住、2008年ブランドshort finger(ショートフィンガー)を立ち上げ、活動をスタートさせる。
現在は外モンゴルで生産するカシミヤブランドCA&Co.(シーエーアンドコー)と、パタンナーの木地谷良一さんと運営するパターンレーベルTOWN(タウン)としても活動する。

https://short-finger.com/

〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色1490-4
info@short-finger.com

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