作り手になるまでの物語をたっぷりお聞きしました。

今回のインタビューは、葉山在住、ニットデザイナーの渡部まみさん。

渡部さんは、ニットブランドshort fingerとして、オーダーメイドのニット帽を制作するとともに、CA&Co.という上質なカシミアのニットブランドも運営されています。

渡部さんとは移住前に知り合い、展示会でニット帽をオーダーさせていただくなど親しくさせていただいていました。葉山に来てからもご縁が続き、今では家族ぐるみのお付き合い。

どんな時も太陽のような笑顔で、お会いすると必ず元気になれる渡部さんは、私にとってニット作家としてはもちろん、女性としても憧れの存在です。

(聞き手:works and stories 松井咲子/撮影:渡部忠)

5「全部、偶然。」のその裏にあるもの

- 第5回は、渡部さんがこれまでブランドを続けてこられたのはなぜか、その理由に迫ります。

松井
自分で営業をしたことがないと伺って驚いたのですが、それは、本当ですか。
渡部
はい。来てくれた人がどんどんつながってつながって、覚えてくれた人がまた来てくれてってそんな感じかな。
松井
なるほど~。やはり、こうださん(※ko‘da-styleのこうだかずひろさん)と出会って展示会に出たのがきっかけですか。
渡部
そう思います。
少しずつ新しいお客さんが広がっていって、最初はこうださんと一緒にいろんなイベントに出してもらって、いろいろメディアにも取り上げてもらえるようになって、少しずつ声がかかるようになってきて。
たまたま知り合った作家さんに紹介してもらってイベントに出ていたときに、たまたまそこを通りかかった出版社の編集長と編集の方が見てくださって、本に出るようになったり。だから全部偶然。

- わぁ!外の世界に出るようになったらあれよあれよという間に声がかかって本まで出版することになるなんて!
でも、これは渡部さんがただの「ラッキーな人だった」という話ではないと思います。だって、展示会の前を編集者さんが通りかかったのは偶然だったとしても、渡部さんの作品が目に留まらなければ、声はかからなかったはずだから。
渡部さんの「偶然」という言葉の後ろには、ニット作家としての力が隠れていると感じました。
もう少し突っ込んでお話を伺ってみました。

松井
仮に、出会うきっかけは偶然だったにしても、なぜ出会った人とその後もつながっていくのだと思いますか。
渡部
きっとでしかないんだけど、手作りだけど、手作りみたいじゃない。既製品みたいな顔つきをしている、普段使いできるなっていう商品の顔があると思います。
 
あと、仕事のやりかたが会社員時代に厳しい先輩に教わったままなので、今回こういう企画でこういう作品を考えてほしいという依頼をいただいたら、昔の経験でものすごいバリエーションを出しちゃうんですね。そういうところできっと使って頂いているんだと思う。
松井
仕事が早くて、期待以上の数の作品を提案してもらえるから、編集者さんも安心してお任せできるんですね。
松井
いろいろな土地のお店から展示会に呼ばれるのはどうしてだと思いますか。
渡部
きっと…キャラクター(笑)
商品やInstagramの投稿を見ると私はおとなしく見えるみたいなんです。
編み物をする人っておとなしくてナチュラルな感じ?でもね、会うとこんなだから(笑)
それでみんな「なんかちょっとほっとしました」って言って仲良くなって。私は、基本的には人見知りなんだけど、しゃべり始めるとどんどんお話しするから(笑)

- キャラクター、納得!
私も渡部さんがいるだけでその場がぱっと明るくなって、その元気オーラが周りの人にどんどん広がっていくのをお会いする度に感じていました。
お店の人が一緒に仕事をしたくなる気持ちがとてもよくわかります。

松井
なるほど~。キャラクターがすごく展示会向きなんですね。しかも、販売するだけじゃなくてその人に作ってもらえるっていうのが嬉しいですよね、お客さんは。
渡部
そういう安心感もあるかもね。お店の人も作ってる人が直接しゃべるから、任せても安心っていうのが。

- ニット作家としての確かな実力と仕事のスピード、そしてお店の人やお客さんとうまくやっていける人間的な魅力がそれまでのお仕事につながってきたのは疑う余地はありません。
でも、もう一つ注目すべきは、渡部さんが「手作りだけど既製品みたいな」と表現する商品のクォリティーとセンスの良さ。
 
私自身は自分のセンスに自信がなくて、センスのある人がうらやましくて仕方がない。
センスが良かったらなあと思うことは多々あれど、一方でセンスって漠然としていて何なのか、あまりピンとこないのが本当のところです。
 
わかるようでわからない「センス」について伺ってみました。

松井
渡部さんのニット帽、とってもセンスが良いなと思うのですが、そもそもセンスって何だと思いますか。
渡部
センスがいい人ってすごくたくさんいますよね。
私は自分がセンスがいいとは思わないけど、人がこうだったらいいのになっていうのをつかむのはできます。
もともと持ってた特技じゃなくて、訓練されてこれにはこう、これにはこれのほうが合うとか、そういうのがわかってきた。そういう感じかな。

- そうか~!
センスというと流行に乗っているかとか、単にかっこいいかというところに注目しがちでしたが、その人に似合うものがわかることが本当のセンスの良さなのかなと理解しました。

渡部
ニット帽を作ってきて、本当にだんだん発見はある。
最初のころより今のほうがこの人にはこれが似合うとかすぐにわかるようになってるし、進化はしてると思う。だから訓練。

- 最終回は、渡部さんのニット作家としての葛藤と、それを克服するための驚きの方法をお聞きします。

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この記事に登場の作り手

ポートフォリオ

渡部まみ
都内の服飾専門学校卒業後、イトキン株式会社のニットデザイナー、某服飾専門学校の教職を経て、2007年葉山に移住、2008年ブランドshort finger(ショートフィンガー)を立ち上げ、活動をスタートさせる。
現在は外モンゴルで生産するカシミヤブランドCA&Co.(シーエーアンドコー)と、パタンナーの木地谷良一さんと運営するパターンレーベルTOWN(タウン)としても活動する。

https://short-finger.com/

〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色1490-4
info@short-finger.com

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