作り手になるまでの物語をたっぷりお聞きしました。

今回は、鍼灸あん摩マッサージ指圧師の小牧さんにお話を伺います。

小牧さんは、都内の商社でおもちゃの輸入販売に携わった後、整体院での勤務を経て、昨年3月に葉山町、整体・はり灸と漢方茶の店kibacoをオープンしました。
実は、小牧さんはこの文章を執筆する私、松井の夫でもあります。この十数年間、私は家族として小牧さんの仕事を含めた人生の変遷を見てきましたが、思えばこれまで面と向かって仕事への想いを聞いたことはなかったかもしれない。
今回はインタビュアーとして、小牧さんのこれまでのことや現在の仕事のことをゆっくり聞いてきました。

(聞き手:works and stories 松井咲子/撮影:渡部忠)

2この人はどういう状態、どういう体なんだろうっていうのを細部まで理解したい。

- 第2回は、小牧さんが葉山に移住して開業することになった経緯についてお聞きしました。

松井
一昨年葉山に移住して、昨年kibacoをオープンしましたが、いつ頃から独立開業しようと思っていたのですか。
小牧
整体院に勤めてるときは開業は想像していなくて、できない理由しか見てなかった。
物件を借りなきゃいけないとか、設備を用意しなきゃいけないとか、最初にすごくお金がかかるとか。当時は勤めていることに不満もなかったし、大きい会社で安定してたし。
 
でも、当時住んでいた東京のマンションの近くの川沿いを散歩してたとき、感じのいいログハウスみたいな空き家を見かけたのがきっかけで、一軒家に住み替えるっていうアイデアが浮かんで。
「一軒家に住むんだったらそこで開業したらいいんじゃないの?」っていうアイデアが出てきたんだったかな。
他で物件借りなくてもいいっていうのもそうだし、自分の家だったら通勤がないのも嬉しいし、「あ~!それは確かにいい、なんで思いつかなかったんだろう。」って思って。
でもそれとは別に移住したいという思いがあって、移住先をいろいろ探すうちに、葉山のここの土地を見て「ここだ!」ってなったんだよね。
その時にはもう「ここで開業したい」っていう気持ちになってた。

- 小牧さんがたまたま散歩中に空き家を見つけたように、人生は本当に小さなことがきっかけで大きく動くものですが、その変化をどう感じるかは人それぞれ、またその時によっても変わるものです。
小牧さんはこの大きな人生の変化をどのように受け止めていたのでしょうか。

松井
家も家族も仕事もあり、慣れ親しんだ土地から離れて仕事を辞めて独立するというのはかなりのチャレンジだと思うのですが、そこに飛び込んで、しかもそれを楽しめたのはどうしてだと思いますか。
小牧
色々な要素はあるけど、ここらで人生をがらっと変えたいみたいな欲求があったかな。
ある程度先が見えてるじゃない。資格を取るとか、勤め先があるとか。
移住先で開業するっていうのは、本当になんとなく思っていたことが急に現実になりそうな、手の届くところに見えてきてそれはいけそうだっていう風になったし、家族で越して家を建てるっていうのもすごく面白そうだったし、楽しかったし。
その時はすごくはまったんだよね。やりたいっていう気持ちが。確かに自分でもすごい珍しいと思うけど。
松井
不安よりも楽しそうっていうのが大きかったのでしょうか。
小牧
そうだね。開業してからどうするんだっていう不安はあったけど、「最終的には終わりはしない。」みたいにいつも思っちゃうっていうか。だから「なんとかなるか~。」みたいな。
好みとして変化を好まないとかはあるかもしれないけど、別に終わりはしないよね、と。
松井
石橋を叩いて渡るタイプなのかなと思っていたけれど、渡った後は心配しないのかもしれないですね。
小牧
うん、歩き出したらまあいいか、みたいな。
やるべきことはやるけど、一応叩いたから今更崩れるかどうかは気にしない感じなんじゃないかな。
松井
楽観的なんですね!実は。
小牧
そうかもしれない。良くも悪くも適当なんだよね。
松井
その気になったら、もうそこまで行っちゃうタイプ。
小牧
うん、楽観的にやるというかね。かもしれないね。

- 「ここらで人生をがらっと変えたい」という言葉に納得。
私が移住を考えたのもまさにその思いがあったから。
他にもいろんな理由があったけれど、突き詰めて考えると、ただ違う場所で違うことをして暮らしたいというシンプルな欲求が根底にあったことに気が付きます。
小牧さんもそんな自分の欲求を見逃さず、その想いを叶えるためにまっすぐ前を向いて進めたからこそ、その人生の大きな波を楽しみ、面白がることができたのかもしれません。

松井
独立する人には職場と家を分けたい人もいるなかで、kibacoは家の一部がお店になっていますが、このスタイルは合っていると思いますか。
実際にこのスタイルでやってみて嫌ではないですか。
小牧
全然嫌じゃない。
家とくっついているとどうしても家感が出やすいから、それは嫌だなと思っていて。だから、内装はきちんとやって、施術所なんだなっていうのをわかるようにしたいなと思ってたんだよね。家の隅でやってますって言う風にはしたくなかったから。
家と別にしたいっていうのは気分の切り替えができるとかそういうことかもしれないけど、それは別に気にならないんだよね。むしろ通勤しなくていい楽さの方がある。ぱっと降りてきて仕事ができるし。
部屋のレイアウトを変えてみたりとか、思ったときにすぐできるのはすごくいいし、あと自分のこのスペース、エリアがすごい大好きで。それが自分の家にある方が自由にできるから安心っていうのがあるのかな。
松井
そういう空間を持ちたいって言うのも、それが家一緒になってるかどうかは別として開業したい理由のひとつではあったのでしょうか。
小牧
もちろん、もちろん。そもそも開業したいっていうのも、自分が一番良いって思ってることを全部やりたいから開業するんだよね。
勤めてたら勤め先の方針があって全部決まってる。
もちろんこちらから意見を言うことはできるけど、全部自分が好きなようにできるわけじゃないし、その点ここは自分の責任ではあるけど全部自分の好きにできるから、逆にこれでだめだったらもうだめっていうか(笑)
これが世の中の人に受け入れてもらえるかどうかを知りたいというのも開業した理由のひとつかな。
今自分ができることを全部やって、それが良いと思ってもらえたらすごく嬉しいじゃない?だから別にアグレッシブな意味で「どうですか!」っていうのではないけど、「今できる精一杯っていうか一番はこれですけど、どうでしょうか?」っていう。それが開業することの意味っていうか一番面白いことじゃないかな。
思いついたらすぐやっていいことばっかりだし、いつでも変えていいし。

- 自分が一番良いと思っていることを全部やるために開業する。
確かにkibacoの空間、サービスすべてに小牧さんのこだわりや小牧さんらしさがちりばめられています。
そんな自分の思い描く空間が完成しお店が動き始めた今、小牧さんはどのような気持ちで日々仕事をしているのでしょうか。

松井
そういう場所を作って開業してみて、今どうですか。
小牧
大変ですよ!(笑)
松井
思っていたより大変ですか。
小牧
想像…そうね。想像してた以上にっていうか、想像しきれてなかったよね。大変だろうなとは思ってたけど、やっぱり細部に至る大変さがあるから、大変。
松井
反対にやっぱりよかったっていう最大の喜びはどんなところで感じますか。
小牧
最大ね…。もう、それはたくさん!
こういう自分で満足できる空間がまずできたというのもそうだし、そこにお客さんが来て施術を受けてお金を払ってくれるわけじゃない?それって、もうとんでもないことだなと。
だって会社にいればお店を作ったのも会社だし、ベッドを置いたのも内装をしたのも宣伝したのも、全部会社がやって、来た人に施術をして満足してもらってお金をもらうわけだけど。
このトータルの空間とサービスの仕方と施術の仕方と全部自分発信でやって、それにお客さんが「いいですよ」っていうことでお金を払ってくれるわけじゃない。
その人が二回、三回、四回来てくれたら、まあなんてありがたいんだろうっていう。自分のやってることへの自信にもなるし、それって本当に、すごい!
あとは、自分のやり方でやれるから僕も心地よく仕事ができるというか。
施術時間を決めないのもそうだし、カウンセリングに時間をかけるのも、会社でやってるとなかなかできないことなんだよね。
でも本当にお客さんと話をして、人間的な理解があったうえでの施術の方が絶対にいいから。
自分で気持ちよくやりたいように仕事ができて、それがきっとお客さんにとってもいいことであるっていうことができているのが嬉しいかな。

- 自分ひとりで店を切り盛りするのは当然簡単なことではないと思いますが、自分が思い描いていた空間を作り、お客さんを迎えて喜んでもらえる喜びは何にも代えがたいものだと思います。
何よりもそこには小牧さんが心から望む、人と人の人間らしい関わりが確かに生まれています。

松井
小牧さんがお客さんに接するときに心がけていることはありますか。
小牧
それは…絶対適当にやらないって思ってる。
まあいいやって思っちゃったら、自分ひとりでやってるし、一回そう思ったらもう終わるんじゃないかって思って(笑)
だから、「これでいいや」とは絶対したくないと思ってやるかな。
「まあいいや」って思わないでやっていれば、自分に対して引け目を感じなくていいじゃない?
お客さんに対して全力でやるっていうのは当然やらなきゃいけないことだしやるんだけど、自分に対して後ろめたくなりたくないっていう非常にわがままな理由ではあるけれど、やってる最中に「こんなんもんでいいか」みたいにはしたくないって思う。

- 「絶対適当にやらない」。
シンプルだけど、自分はここでkibacoをやっていくんだという力強い覚悟を感じます。
小牧さんはさらに興味深い話を聞かせてくれました。

小牧
性格とか、体の使い方とか体の状態とか、ここにいるこの人はどういう状態、どういう体なんだろうっていうのを細部まで理解したいと思ってる。
前はそこまで深く考えていなかったかもしれないけど、一照さん(※葉山町在住の曹洞宗僧侶 藤田一照氏)の坐禅会に行くようになったり、マインドフルネスの話も聞くようになって、自分の心と体がどういう状況にあるかっていうのをよく感じてみようと思うようになった。
それもあって、お客さんにもそういう興味を自分自身に対して持ってほしいと思って話をするようになったかな。
ここが痛いですよねとか、ここが固いですよね、それはこうだからですね、というところまでお客さんに関心を持ってほしい。
それは漢方茶もそうで、自分に対するケアとか養生とかについて思い出すツールの一つとしても漢方茶を買って帰ってもらって、日常的に飲んでもらうのも意味があると思っていて、施術の時にああだったな、だからこのお茶を飲んでこうしようみたいな風に思ってほしいというところが以前よりも深まったような感じがする。

- 施術者としてお客さんの状態をよく観察して理解しようとするのと同時に、お客さんにも自分の体の声に耳を傾けてもらうように促す。
日々忙しく暮らしていると、自分の体に注意を向けることを忘れてしまいがちですが、少し視点を変えて自分の体の状態をより「自分ごと」として考えられるようになり、施術を受ける度に自分の体の変化に敏感になって自分で自分の体のことが分かるようになれたら、自分の体をもっと大切にできるようになるかもしれない。
「忙しい」を言い訳にせずに、少しずつ取り組んでいく価値はありそうです。
 
葉山に移住して自分自身の心と体の動きに敏感になったという小牧さんは、移住後の自身の心境の変化について次の様に話してくれました。

小牧
これまでずっと、僕は見られている自分っていうのを意識せざるを得ない精神構造をしていて、どうしても、これをやってる自分はどう人に映るのかっていうのを気にしてしまっていたんだと思う。
葉山に来て価値観の多様ないろんな人に会うなかで、人に見られているとかではなく、自分がどう感じているかとか自分がどうしたいかということに自然にフォーカスできている感じがして。それがすごくいいなと思って少しずつ自分が変わってきているのがあってね。今のお客さんへの対応の仕方とか施術の仕方とかが変わってきたなあって思う。

- 周りの人との出会いから自然に視点を外から内に移せるようになり、それが施術の仕方にも変化をもたらす。
私も最近少しずつ自分の心地よさや感覚を優先できるようになってきましたが、まだまだどう人に見られているかが気になって動きが不自由になるのを感じる瞬間が多々あります。小牧さんのように外からの目線ではなく、自然に自分自身の気持ちや感覚にフォーカスできるようになったら、世界の見え方が大きく変わるんだろうなあ。
 
次回は小牧さんのkibacoでの毎日、そしてこれからについて伺います。

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この記事に登場の作り手

ポートフォリオ

小牧翼(たすく)
Sandringham Secondary College 卒業
国際基督教大学 卒業
ウィルワンアカデミー 整体プロフェッショナルコース 修了
日本鍼灸理療専門学校 本科 卒業
都内の整体院、整骨院に8年間勤務の後、kibacoを開業

https://kibaco.life/

〒240-0113 神奈川県三浦郡葉山町長柄424-1
046-854-4219
info@kibaco.life

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