3風まかせ、流れにまかせて。
- ここまで、ごがつの日の音楽について伺ってきましたが、ここでどうしても聞きいてみたかった質問を思い切ってぶつけてみました。
それは、お二人が別のお仕事をしながら音楽を続けていることについて。別の言い方をすると、音楽を仕事にせずに音楽を続けていることについてです。
- 松井
- ちょっと違う質問なんですけど、お仕事をされながらごがつの日の活動を続けていて、これだけのアルバムを作るのは大変なんじゃないかなと思いますが、仕事と音楽とのバランスはどうですか。
- 田川
- そうですね、そんなに仕事とのバランスは苦にならないようにようにっていうところはあるのかな。
- カキシマ
- 無理はしていないです。
- 田川
- そういう意味では、今の仕事は比較的融通を効かせてもらっていますね。ライブのある時とか、何かしたいときとか。あとは、ゾゾミはフリーだから、そういう意味でスケジューリングは二人のなかでしやすいかな。
- 松井
- 私の周りには、若い頃は音楽をやっていたけど今は完全にやめて音楽以外の仕事についているっていう人が結構多くて。そんな中でお二人がお仕事をしながら、音楽も続けたいって思うモチベーションってどういうところにあるのかなっていうのが知りたいんです。
- カキシマ
- ひとつは、きっと音楽だけをやってたらしんどい気がするんですよ。私は。音楽一本で生計を立てるとすると、音楽が変わってくる気がするんです。音楽に真剣になりすぎると音楽が変わっちゃう。今は生活があるうえでの延長線での音楽だったらって。
- 松井
- 音楽のために音楽以外の生活が必要っていうことですか。
- カキシマ
- そんなに深くは考えていないんですけど(笑)ただ、音楽で食べていくのってすごい難しいことで、例えば、私たちの音楽に100万円払いますっていわれたらもらいます、100万円を。でも、無理はしてないっていう。
- 田川
- たぶん、音楽とか表現をする人の永遠のテーマなんじゃないかなって思うんです。経済活動につながるかつながらないかって。つながらなければ趣味なのかって。つながればプロなのか、とかいろいろあるなかで、僕らの場合は、音楽をやることが経済活動と直結することが先じゃないっていうのが大きなところ。それは結果であって、そこを目標にやってきていないし、これからもやらないんじゃないかなっていうのが僕らの結論です。
儲かればいいけど、儲かるための何かみたいにはしていない感じはずっとある気がしていて。なので、生活の中で負荷がかからないように工夫するとか。大変なこともあるけど大変を乗り越える楽しいことがあるから。録音もすごく大変だったけど、楽しいこともあって、ご飯食べるのも楽しくて、散歩行くのも楽しい、4人で話すのも楽しいから、続けられると思うし、それは息子が大きくなってもやっていきたいことだから、音楽はずっと続けたいなっていうのがあります。
- お話はつづきます。
- 田川
- 永井宏さん(※美術作家・詩人。90年代に葉山で「サンライトギャラリー」を主宰。)という方が書いていた、「だれでも表現者になれるんだよ」という一節を読んで、本当にそうだなってずっと思っていて。プライドが邪魔をしたくないなって。僕らってミュージシャンだからっていうプライドとか自尊心が足かせになったら、自分にとってのただのハードルになっちゃうだけで。音楽を今やってなくても音楽が好きであるっていうことが自分たちが表現者である入口にいるっていうことだから。今、ライブができてないとかっていうことで、例えばライブ配信をやるっていう選択もあるけど、そこまでやる必要はないだろうって、そういう選択は取ってない。でもたぶん音楽は好きだしやりたいから、そう思っていれば、僕らはミュージシャンだって言っていいんじゃないかって思ってる。いつも言ってるのは、物事のハードルを一番下げられるところまで下げたいと思ってるから。自分がミュージシャンだって思えば自分はミュージシャンだし、彫刻家って言えば彫刻家でいいっていうぐらいの気持ちと、できたものは自分が納得できるものでありたいなっていう、それだけ。
- 「私たちの音楽に100万円払いますっていわれたらもらうけど、無理はしない」というカキシマさんに、「音楽が経済活動につながるのは結果であって、そこを目標にしていないし、これからもやらない」という田川さん。お二人のお話を聞きながら、自分の頭と心がふわっと解き放たれていくのを感じました。
多くの人が、生活の糧を得る手段である仕事のために好きなことをあきらめる事を当然だと思い過ぎているのかもしれません。同時に、やりたいことがあるならそれを仕事にできるように必死に頑張るべきだという考えもあります。でも、自戒も含めてそういうall or nothing な考えで自分をがんじがらめにしていることって結構あるのかもしれないなあと感じる瞬間でした。
もちろん、好きな事を仕事にできることは幸せなことだし、それができている人は輝いて見えます。でも、そのことばかりにとらわれて好きなことを楽しめなくなってしまったら…? お二人のお話を聞いて、自分と好きな事の関わり方は、人それぞれ、その時々で違っていいんだと腑に落ちました。
- カキシマ
- 私たちのレーベルを作ったんですけど、「白帆と風」っていう。それがまさに私たちのスタンスっていうか、風まかせ、流れにまかせて。
- 田川
- モーターはついてないぞ、それで行こうぜって言う。
- カキシマ
- 今はコロナという風が吹いているので、ただぷかぷかしているっていうか。
- 田川
- 今回のイベント(第一回となるworks and stories)って、もの作りをしっかりやられてる人が集まってるから、その中で僕らがそういうスタンスでいるっていうのはすごく恐縮っていうか行っちゃっていいのかなって言う気持ちがあるんだけど、気楽な表現としてっていうところなんですよね、ごがつの日は。
- カキシマ
- 今、コロナ禍でも音楽やってる人はやってるじゃないですか。オンラインの無観客とか、コラボレーションみたいな感じでzoomでやったり。でも私たちの音楽は、音楽でみんなを元気づけようみたいなそういうことじゃなくて。下手にみんなを助けようみたいな変な使命感を持つのは違うよねっていうのを言ったら、田川さんも同じことを思ってたみたい。あえてコロナ禍だからやろうっていうのは別に良いよね、っていう話をして。それこそ風まかせ、こちらから向かうのではなく。
- 松井
- 無理をしたり、負担になったりするのではなく、自然に任せてやっていくということでしょうか。
- カキシマ
- 変な使命感を持つのはおこがましいというか。
- 田川
- コロナで出られないから出られるようになったらやろうか、ぐらいの。湯葉みたいに表面の話なんだけど(笑)
- 松井
- それでもずっと音楽と関わっていきたいっていう気持ちですね。
- 田川
- 音楽やっちゃダメ令が法律で決まったとするじゃないですか、そしたら、まあ残念だけどしょうがないか、じゃあ音楽じゃなくて、何やる?みたいな。本が好きだから本でやる?とか映画同好会作る?みたいな。
- カキシマ
- なんでもいいんです。ただ偶然音楽だっただけっていうか。
- 田川
- 我々が我々たらしめるものって別に音楽じゃなくてもたぶん大丈夫。我々はちゃんと何かしらで何かできる、って思う。もしかしたら、この会話だけでもいいのかもしれない。そこはしっくり来てる。なんで音楽をやってるのって言ったら、自分たちのため。自分たちが楽しくて自分たちが自分たちの曲を聞いたときに、「ああ、このとき由布岳登ったよね」あの時のあれって楽しかったよね。って自分たちで話すのも好きだし、みんなに聞いてもらうのも好きだし。
- カキシマ
- 聞いて聞いてっていう感じ。
- 田川
- コロナって誰が悪いわけでもないこの状況だから、無理に抗うことなく、寒いから冬眠するような感じで、雪が溶けたら外出てぽかぽかやろうっていうぐらいの感覚でいいかなって。さっきも言ったけど、音楽にすがるのはしたくないなって。音楽を聴かない時間もすごく心地よかったりするから、無音であることも音楽が好きな事の一部である気がしているし。
- 松井
- なるほど。では、これからやっていきたいと思っていることはありますか。
- 田川
- このスタンスを知ってもらえて、良いよねって言ってもらえたら嬉しいなって思います。今回のイベントって何が楽しいかって、物作りをする人のなかでもいろんなバリエーションがあっておもしろくて、その人ができる、その人の表現がその人なりにできたらもうそれはそれでOKなんだ。今回僕らが手を挙げたのもこんな音楽のやり方の人もいますぐらいの感じですね。
- 松井
- 今回のイベントにはいろんな人が出てくださいますが、今日までインタビューさせていただいている方皆さんから感じたのが「風任せだった」っていうことなんです。すごいなあと思って。
- カキシマ
- 結構同じようにみんな風まかせでいたら同じところにいたみたいな感じですね。
- 田川
- 結局、海流があって。同じ方向に流れていく場所って必ずあるんですね。
- 今回、インタビュー中に皆さんの口から出るのは、ポジティブで心がほどけるような優しい言葉ばかり。アルバム「忘れえぬ風景」に収められている曲も、すべてそんなポジティブな温かさに包まれています。風に抗わず、流れにまかせて、柔らかいこころで暮らしていけたらいいな。みなさんにお会いした日の午後、ふとそんなことを思う自分に気づいて嬉しくなりました。