作り手になるまでの物語をたっぷりお聞きしました。

今回は、2020年の5月に、ファーストアルバム「忘れえぬ風景」をリリースした2人編成のバンド「ごがつの日」の田川薫さんとカキシマゾゾミさん。

葉山で知人に紹介されて初めてごがつの日の曲を聞いたとき、目の前に真っ青な海と空、新緑の山がわ~っと広がって、心と体が一気に解放されるような心地よさを感じました。

カキシマさんの透き通る声に、田川さんの温かい歌声やウクレレ、口笛。

その後も家族で何度も聴いてその気持ちよさに浸り、小学生の息子もいつの間にかその優しい歌を口ずさむように。

葉山の海のそばにある田川さんのご自宅兼スタジオで、ゆっくりお話を伺ってきました。

(聞き手:works and stories 松井咲子/撮影:渡部忠)

2記憶をとどめ、風化していく前に形にしておきたい。

松井
お二人が、ソロでそれぞれ歌われていた音楽は、似ているんですか。
カキシマ
どうなんだろう。ジャンルは一緒だけど…。
田川
(カキシマさんは)とんがってたよ。優しくて透き通るような音を作るんだけど、歌詞は突き刺さるようなことを言ってる。いわゆる、こういう子が歌うと、美しいもの、きれいなものにフォーカスすることが多いような気がするんですけど、ゾゾミは斜に構えてて…。
「カラス」という歌がすごい好きで、カラスが害獣として捉えられているこの昨今だけど、カラスは何も悪くなくて、人が捨てているゴミをつついて嫌がられてる。っていうのを聞いて、なんてパンクな歌を歌ってるんだろうって。それをきれいな感じで歌うから面白いなって思って。僕もわりと斜に構えてあまのじゃくだから、あまのじゃくな部分が似てるなって。

- 「カラス」、聞いてみたい!一方、カキシマさんは田川さんの音楽へのリスペクトを、次の様に表現していました。

カキシマ
私は田川さんに会って「もう曲作るのやめた」って思ったんですよ。
松井
ごがつの日は、詞と曲をすべて田川さんが作っていらっしゃいますよね。
カキシマ
最初、田川さんの言葉は難しいなって感じてて。それは私が無知だっただけなんですけど。あるとき「渓谷へ」という曲の音源をもらって、自分のキーで歌ってみたら「なんていい歌なんだろう~!」って。自分の口から出すことでうわ~って来て、「あ、もう私、曲作らなくていいや」ってなったんです。こんなに素敵な曲を書く人がいて、わたしはそれを歌わせてもらえるんだから、もう書こうとしてもなにも降りてこない。
松井
それで、田川さんが作った曲をカキシマさんが歌うスタイルができたんですね。
カキシマ
そうですね、100パーセント同意できるから。
田川
それがよかったよね。バンドって一つの曲を半々で作ったり、曲によって作る人を決めるっていうことが割とあるんです、みんな作りたい願望があって。でもごがつの日は初期の段階でしっかりと投げてもらえたから、気を遣うことなく、100パーセントで作れる。こういう曲だったら理解してもらえるんじゃないかとか、こういうことやったら喜んでもらえるんじゃないかみたいな忖度なく、自分の世界でやって、あとはどうプレゼンして納得してもらえるかかなと思うので。
松井
田川さんはどういうところから歌詞のインスピレーションを得るんですか。やはり日常?
田川
日常なんですけど、キーになるのが、記憶。記憶をどうにかとどめたい、風化していく前に何かわかる形にしておきたい。この時どう思ったとか、このとき何が起こったかっていうのにピンを刺しておきたい感じがあって、その時の出来事を曲にするっていうのがずっとテーマにあります。逆に、起きてないこと、見てないことは全然曲にできなくて。しっかり体験できて、自分の中で印象に残ってることが曲に出てきます。

- 新しいことがどんどん起こる日常の中で、一生忘れたくないと願う瞬間がたくさんあります。その瞬間を音楽にとどめることができたら、歌うたびにいきいきとした記憶がよみがえり、その歌を聴くひとと経験を共有することができる。だからごがつの日を聴くと、目の前に景色が広がるんだな…。曲作りについて、もう少し具体的に聞いてみます。

松井
最初に歌詞ができるんですか、それとも曲ができるんですか。
田川
それは曲作りあるある。曲から作る、コードから作る、歌詞から作るってあるんですけど。僕の場合は頭の中にぼんやりしたものが全体的にできてる感じ。曲の中のコアな部分が先にできる、っていう感じです。サビだったらサビが同時進行でボカンとできて、サビがあるからAメロができるBメロができる、イントロができるみたいに、後から肉付けでできていく感じです。だからよく相談するのが、「サビとAメロはできたんだけど、その間のBメロがどうしてもできないんだよね」みたいな相談はするかな。
松井
曲を作るのは夜ですか。
田川
夜です。深夜から朝までずっと作るっていう。
松井
そうやってできたものを、カキシマさんに聞いてもらって相談するんですね。
田川
アドレナリンが出まくって僕の中ですごい想像ができてる骨組みだけを録って送って「また今度ゆっくり聞かせて」みたいな返事が来たり。そこからのキャッチボールで、ああでもない、こうでもないってやる感じです。できた曲も、半年ぐらいあとで「もうちょっとソロを長くとりたいよね」とか、「このテンポもっと速い方がおもしろいよね」とか、僕が無茶振りで言うから「ちょっと待って!」っていうことはあります。
カキシマ
いっぱい出て来たのを受け取らなきゃいけないから、「ちょっと待って、一旦ここまでをかみ砕かせて」みたいな感じで追いつかないことはあります(笑)
田川
そういうこともわかるようになってきて、「あ、今、僕がアウトプットしすぎて(カキシマさんは)パニックだ」って思ったら、待って。
松井
そうやって一曲一曲丁寧に作られた結晶が、去年リリースされたファーストアルバム「忘れえぬ風景」なんですね。このアルバムは、どれぐらい時間をかけて作られたんですか。
田川
1年以上かかりました。ここ(自宅)でやっていることの長所でもあり、短所でもあるというか。スタジオを借りる人はお金払って借りると1週間みっちり籠ってやるっていう。僕らは誰にも見られてないし、途中でお昼寝タイムが入ることもある。
松井
日常の延長にあるレコーディングですね。
田川
褒められたものじゃないと思いますけど(笑)
松井
その空気感がアルバムに反映されているんじゃないですか。
田川
それは存分に出てると思います。
カキシマ
それは間違いないと思います。

- 自宅で焦らずじっくり行われるレコーディング。
「忘れえぬ風景」にはそんな日常の延長で作られた空気がぎっしり詰まっている。そしてそれが聞く人の心をほっとさせてくれるのだと思います。
それにしても、自宅でのレコーディングってどんな感じでするのでしょうか。素朴な疑問にお二人が答えてくれました。

カキシマ
夏は、セミが…(笑)でもあえてそれを残して。
田川
アルバムに入っている「山に呼ばれて」という歌は、真夏の録音で、この辺りはセミがすごくて。
でも夏の歌だし、いいよねって。基本録音は完全に二人でやって、出来上がったのは八ヶ岳に住んでいる僕の信頼しているエンジニアにやってもらって、また音を返してもらうんですけど、エンジニアにはもうセミの声は大丈夫だから入れちゃおうって言って。録音環境としてはかなり珍しいよね。スタジオを借りず、今できることをって言う感じです。
松井
最初からそのスタイルでされてたんですか。
カキシマ
そう。マイクの数とかは探り探りですけど。
田川
最初は、マイク一本で撮ってたんです。真ん中に立ててみんなで同時に演奏して、いわゆる一発録りをやってたんですけど、それだと僕らの技術と音量では難しいからやめて。マイクの本数を増やして、でも基本一発録り。同時にせーので。
カキシマ
真ん中に立てたら、ギターの音とウクレレの音が両方入るから臨場感が出るって最初は思ったんですけど、両方入っちゃうから調整が効かないんですよね、どっちかを下げたいとか。それで途中からこのマイクはウクレレ担当、こちらはギター担当みたいな感じで変えたんです。
松井
「忘れえぬ風景」に入っている9曲はどれも思い入れのある曲だと思うんですけど、特にこの曲って選ぶことはできますか。
カキシマ
私は日によります。
松井
田川さんは?
田川
ごがつの日の曲をかけると、息子がよく寝るんですよ。子守歌みたいになる。低音が入っていないから、落ち着きたいときとか、寝かしたいときとかにかけたりして。
優美
その日の天気とか自分のテンションで「ああ、今日はこれがしっくりくるなあ」っていうのはあります。私は息子と一緒にいるからうちでよく聞くんですけど、「忘れえぬ風景」は結構好きかなあ。
田川
「忘れえぬ風景」は、もともと優美の写真の展示会用に作った曲です。
優美
タイトルはそのまま「忘れえぬ風景」っていう展示で。
田川
(アルバムに入っている)「山に呼ばれて」も「日記」も優美の写真展の歌で。だから、優美の写真展の曲がこのアルバムには3曲入ってるんです。「山に呼ばれて」と「忘れえぬ風景」と「日記」。
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ポートフォリオ

ごがつの日

左:田川薫
(ウクレレ、歌、口笛、メロディカ、グロッケン)

右:カキシマゾゾミ
(ギター、歌)

夏を待つごがつの日にわたしたちは生まれました。特別じゃないようで特別に思える、そんなことを歌っています。

2020年5月 1stアルバム『忘れえぬ風景』リリース
オンラインストアにて販売中
https://gogatsunohi.com

オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/gogatsunohi/

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